グローバル化
グローバル化という言葉を初めて聞いたのはおそらく中学生の頃の社会科の授業だった。その時は世界中で同じ製品や食べ物が手に入る様になったこと、といった具合の解説をしていたと思う。マクドナルドは世界中に店舗を構え、海外の大企業の製品はどこにいても手に入るし、インターネットから世界中の情報にアクセスできる。そんな感じで説明していたのだと思う。その後は下手くそなのに、大学3年まで野球のことを中心に考えて生活をしていた自分はグローバル化について考察することもなかった。なんとなくグローバル化の意味を分かり始めたのは20代半ばに差し掛かった頃だろうか。客船に勤務した経験が大きかったかもしれない。アテネにもマクドナルドがあって、Wi-Fi求めて観光客が群がっている。地下にあるトイレの鍵のパスワードは購入時のレシート下部に記載がある。人々は異国の地に踏み入れても見慣れたものがあるとホッとしたくなるのかもしれない。見知らぬものを体験しにきたことも忘れて。
グローバル化とはなんだろうか。そこは元々そこにあった何かを全て巨大な何かでとって代えてしまおうということではないか。商店街にあった美味しい中華料理屋さん。お店を切り盛りしていた老夫婦は後継ぎがおらず店を畳む。代わりに入ったのは王将だ。小さな頃から地元で育った子供達の心の味は老夫婦の作った餃子ではなく後者のそれ。彼らが大きくなって旅に出ると、旅先にも王将があることに気付く。ラッキー。彼らに子供が出来たら餃子は王将、寿司はスシロー。さあいくらでも食べなさい。この味は日本中どこでも楽しめる。なんて素晴らしい世の中なのだろう。これもグローバリズムなのか。
小さい頃、祖母が出前で取ってくれたかけそば。お店のおじさんがカブに乗ってやってくる。おかもちの板をスライドすると、器用に上部をラップと輪ゴムでふたをしたどんぶりがお目見えする。1,980円でーす。お釣りは20円ですね。いつもありがとうございまーす!祖母は時々冷蔵庫にあったオロナミンCをそのおじさんに差し出す。
20年後。
さあ今日は何を食べようかな。そうだ、最近出来たお店、デリバリーやってるって書いてあったな。。どれどれ、あ、バインミーが美味しそう。40分程度で配達ね。よし、決済はクレジットカードで、と・・。
30分後。
マスクをした控えめな若いお兄さんがやってきた。それの入ったビニール袋を手渡して、軽く会釈をするだけ。便利な世の中になったけれど、なんだか味気ないものだよね。これも多分グローバル化。
出前の文化は廃れたけれど、最近はニュータイプの出前が普及してきたらしい。海外のタクシー配車アプリの会社が始めたんだって。日本ではLINEの子会社がCMで浜ちゃんに歌を歌わせて対抗しているみたい。
昭和の社会にささやかな贅沢、ハレの日の消費に華を添えた百貨店。苦境は続き、日本橋と新宿に旗艦店を持つ両者は持ち株会社として合併した。鉄道とプロ野球団の存在が際立つあの百貨店はコンビニの傘下になっていた。それが最近、アメリカの投資会社に2,200億円で売り捌かれた。ワークマンの時価総額より安いじゃないか。
日用品を扱う会社に吸収されたと思えば、百貨店で売るものも恐るべき低価格化が進んでいる。
池袋にあるもう一つの鉄道系百貨店、気付けば2フロアがユニクロになっている。かと思えば横浜駅のビルの6階、有隣堂だったのにGUに取って代わられている・・。ジョイナス店より改札に近かったのに・・。
かと思えば近所の百貨店にはダイソーが顔を利かせている・・。
いつから日本はこんなに貧しくなったのか。
百貨店とイオンモールの違いってなんだっけ?
大企業の台頭が世の中をつまらなくしてしまったと責めるのは簡単だけれど、それらを買い支えているのは誰だろう?他でもない私達じゃないか。自分で自分の首を絞めているも同然だ。しかし消費者は予想以上にその仕組みに気付いていない。それは新聞やテレビ欄を見れば瞭然だ。資本主義が本当に悪いのか?いや、激安大盛り正義主義が広がり過ぎているからじゃない?良いものにそれ相応の対価を支払う文化はどこへ行ったのか。
人々は経済的に超合理的なものばかりを選び取る癖をつけてしまった。刷り込まれてしまった。いや、刷り込まれているあなた達が鈍い。でも痩せ我慢してルイ・ヴィトンのお財布は買っちゃうよ。中間層の価格帯製品が市場から姿を消している。これが二極化というのか。
皆賃金が上がらないと嘆く。賃金は企業の売上に左右されるものなのだから、私達が安いものばかりを購入してばかりいたら賃金など上がるはずもない。まずは近所のお店の店員さんのお小遣いをあげる努力をしてみたらどうだろうか。スーパーの一袋70円の激安小松菜ではなく、近所の八百屋さんのひとざる150円の小松菜を購入してみる。八百屋のおじさんのお小遣いがUPするかもしれない。
毎日使うご飯茶碗。ダイソーで買わないで数千円の手作り茶碗にしてみたらどうだろうか。地方の名もなき陶芸家のお小遣いが大幅にUPするかもしれない。
周り回って自社の上顧客が発注ロットを増やしてくれた。これで私のお小遣いもUPかな?
地に足ついた手の温もりを感じる製品。感性に訴えかけるあの品物。よく見渡してみると、かろうじて近くにも残っている。そうしたものを手に取ってみると、思わぬ胸の小躍りが待っているかもしれない。